◆IT経営支援事例

支援事例(1)支援者:IT経営プロフェッショナル 福田和夫

~IT導入がヒトの変革をもたらす~

株式会社福井洋傘

(丹精込めて作る橋本社長)

株式会社福井洋傘

代表取締役社長 橋本 肇
所在地 福井県福井市浜別所町4-4-2
年商 1.8億円
従業員数 18名
事業内容 高級手作り傘の製造卸・小売
URL http://www.fukuiyougasa.com/

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 (株)福井洋傘は、経済産業省の平成19年版「元気なモノ作り中小企業300社」に選出されてから、ここ1、2年で急速にその知名度、注目度を伸ばしている会社です。経営コンセプトは、「お客様に感動してもらえるこだわりのある傘作り」。昭和47年に創業以来、はさみとミシンで手作りの傘を作り続けています。当初は、橋本平吉現会長が地域活性化をめざし、大阪の傘メーカーの下請け生産を始めましたが、諸事情により一時の業務停止後、平成3年に法人化し、再スタート。今は、全国の有名百貨店の催事場などでの出張販売でオーダー注文を受け付けています。

新商品・新技術めざし熱い思いと研究研鑽


fukui3.jpg 私が会長(当時は社長)と橋本肇社長(同専務)のお二人に最初にお会いした時、傘作りにかける熱い思いと研究熱心さが強く感じられました。「古来の傘文化を継承・啓蒙しながら新しい傘を楽しむ文化を創造すること」を経営理念に掲げて、お客様の声、ニーズに応えるために、日々、新商品、新技術の開発に注力しています。生み出された商品群は傘の機能と用の美を追求した「禅座」シリーズと、雨と光を楽しむために作られる「ZENZA」シリーズに分類されます。「禅座」には、匠の傘、蛇の目洋傘、家紋入洋傘、日傘、晴雨兼用傘があり、「ZENZA」には、ヌレンザ、あじさい洋傘、晴雨兼用傘があります。ヌレンザは、平成17年に商品化され、メーカーの協力を受けて開発した超高密度ポリエステル生地を傘生地として使い、閉じる瞬間に水滴を弾き飛ばし、常に乾いた状態でもち歩ける「濡れない傘」です。1本3万円以上と高価なのですが、納品まで3ヵ月待ちの状態が続いています。横浜高島屋では月に50本も売れるヒット商品であり、トヨタ自動車の高級ブランド「レクサス」のレクサスコレクションとしても採用され、ディーラーの店舗で販売されています。

手作業文化の中に効率効果の追求を


 (株)福井洋傘の情報システム構築を支援するきっかけは、2年前の夏、中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)北陸支部の専門家継続派遣事業の派遣専門家として、会長(当時は社長)から相談を受けたことに始まります。情報活用状況と課題認識の把握を行いましたが、ヒアリングの結果では、製造部門、事務管理部門、営業部門ともにIT活用は極めて遅れており、手書きによる管理が中心(一部、売上集計を表計算ソフトを活用)で時間と労力が多くかかっていた状況でした。IT化の課題テーマは、いわば、「手作業が当たり前の文化の中にITの利活用による効率・効果を追求する文化を取り入れる」ということになります。

まず管理部門からヒトの改革を実践


 それまで、社長はIT導入の必要性を感じながらも、使う側から要望が出ておらずまだ機は熟していないと感じられていました。しかし、会長は、順調に業容が拡大しつつある現状を考えると、従来の手作業による管理では正確さ・迅速性の限界があることを察知され、少なくとも製造の裏方を支える事務部門の管理にはITを導入して効率的な作業を進めなくてはいけないという認識を持たれました。それで、中小機構に相談に来られたということです。
 ただし、会長自身はITには不慣れであったため、今回のIT活用文化導入プロジェクトは、筆頭リーダーを社長にしてIT苦手意識の少ない若手メンバーを中心に進めることになりました。プロジェクト発足にあたり、社員を思う社長からは3つの注文がありました。

① ITに不慣れな人にも、具体例をあげて導入メリットを強調してほしい。
② IT導入コスト、作業が負担にならない進め方をしたい。
③ 単なるIT導入ではなく、ITを使う「ヒトの改革」も重視したい。

 出張営業で営業メンバーが一同に会する機会は年に数えるほどしかないので、日程を組む時に長期化はするが「ヒトの(意識)改革」のために、毎回の会議においては忙しさにかまけることなく全員出席をお願いしました。中小機構の支援では、機構側支援プロジェクトチームにより支援計画を作成し、「経営戦略策定後、IT戦略を策定し、情報システム調達のためのIT企業向けシステム提案依頼書(RFP)の要旨作成」までの支援プログラムを実践しました(この後、福井県商工会連合会の地域力連携拠点事業により、RFPの詳細を詰めて次の2点を要求事項としたRFPを完成させました)。

・お客様の傘作りの要望に100%応えるために、材料、品質、納期を管理して、スムーズかつ快適な顧客対応ができるシステム
・営業担当の得意分野、催事時期、開催場所が変わっても、その時の経済情勢や地域性と商品の傘をマッチングするマーケティング戦略志向システム

 現時点で、RFPの集合説明会を実施し、提案書提出、提案書説明会(プレゼンテーション)を終え、現在、IT企業の評価・選定作業を行っているところです。作業メンバーは言うまでもなく全員。ここまですべての会議を通じ、実務をイメージして今後の姿を考えることの徹底により、「ヒトの改革」を実践してきました。

お客様の傘作りへIT通した会社変革


fukui4.jpg 社長は言います。「信頼できるITコーディネータと意思疎通がうまくいって、当初は、ITに対する抵抗感がありましたが、ITで何ができるかわかるようになり、モノとしてのITではなく、ITの具体的活用イメージを想像でき、同時に業務改善を考えられるようになりました。新しい業務の姿がお客様にとって有効ならITは必要である、との考えができるようになりました。これは、私だけではなく、社員も同じで、会社の検討課題について、効果、適用範囲、実施優先度など主体的に各自自ら判断できる思考法が身についたのが大きく変わった点でしょう」。(株)福井洋傘はITの使い道を的確にとらえて、身の丈に応じた会社変革を"お客様の傘づくり"のために進めています。


※提案依頼書(Request For Proposal):企業が自ら自社のシステム化要件をまとめて、システム提案依頼先となるIT企業に、より正確な提案・見積を行ってくれるように依頼する文書。

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支援ITコーディネータ紹介

ITコーディネータ
福田和夫

IT経営支援事例(2) 支援者:IT経営プロフェッショナル 横屋俊一

~インターネット時代の新ビジネスモデル~

会宝産業株式会社

代表取締役   近藤典彦 氏

会宝産業株式会社

所在地 石川県金沢市東蚊爪町1丁目25
創業 昭和44 年
従業員 48 名
事業内容 ・自動車中古部品輸出販売
・自動車リサイクル事業
・中古自動車の買取、販売
URL http://www.kaiho.co.jp

インターネット時代の新ビジネスモデル
日本の中古車は海外の「宝」
輸出強化は競争より協調で
石川県金沢市 中古自動車部品販売業 会宝産業
(平成18年度IT経営百選最優秀賞受賞)

国内外で異なる中古車部品の価値がビジネスチャンスに


jirei_07_02.jpg日本の常識は世界の非常識。石川県金沢市・会宝産業のビジネスは「地球規模での発想」が基点だ。
 中古車の解体業から中古車部品販売事業を生み出した近藤典彦社長は、販売に手間を要する中古自動車部品が、海外では飛ぶように売れることを知る。
 というのも、中古自動車の査定額が走行7年で0円になるのは日本だけの事情。同じ車も海外に行けば「現役」なのだ。さらに日本車の中古部品は日本車からしか取れない事情もあり、海外の業者は「宝」を求めて日本に買い付けにやって来る。
 「一つあたりの単価は安いが、これなら確実に売れる」と、近藤社長は輸出事業に着目する。

インターネット時代を迎え自らが商社機能を 


当初は商社に仲介を頼んでいたが、マージンが大きく、また値決めも満足がいくものではなかった。しかし幸運なことに、インターネット時代の到来とともに、オープンに情報をやり取りできる環境が整備されてきた。言葉の問題さえクリアできれば、自社で商社機能を果たせそうだ。
 解体業の同業者は輸出を躊躇している。ならば、輸出に特化すれば差別化にもつながる。
 こうして新戦略に踏みきり、現在は58カ国との取引実績を持つまでになった。さらに、ロシア、モンゴルなど10拠点のエージェントと契約し部品ストック用拠点も置いている。近隣諸国へはこの拠点から部品が配送されていくのだ。英語、ロシア語、中国語が堪能な社員を雇用し、語学の壁も取りはらった。
jirei_07_03.jpg 一方、国内においては約30社の解体事業者とNPO法人RUM(リ・ユース・モータリゼーション)アライアンスを形成。自動車リサイクル事業の標準化を目指しつつ、ネットワークによってスケールメリットを出し、互いのビジネスチャンスを増やそうというものだ。近藤社長は「これからは競争よりも協調で利益を出す時代」と見通しており、連携によるコスト削減も競争力強化のカギを握ると考えている。
 そして、世界規模での物流を支えるには「情報」が欠かせない。物理的なモノの動きをデータとして把握し、調達も販売もさらに円滑に進めたい。例えば、イギリスで倉庫の中に必要な部品の在庫がなかった場合、もし近くのギリシャに在庫があるとわかれば、日本からコンテナで送られてくる部品を待たずに拠点間の移送で調達ができる。顧客への商品提供はスピーディになる。
 そこで、会宝産業が、海外拠点の在庫、販売、仕入れなどのデータを集めて海外エージェント(販売側)と国内アライアンス企業(調 達側)に公開すること、情報を通じて商社の機能を強化することが同社の次のステップとなった。

ITコーディネータのアドバイスを受け電子商取引システム構築へ


 近藤社長が温めていた構想はITコーディネータ横屋俊一氏の協力で具体的なシステムとして実現する。今回は企業間のデータ共有であることから、Webをベースにしたシステム(名称KRAシステム)を開発。会宝産業のサーバーにデータを集約し、在庫や販売を一元管理する。海外エージェントやアライアンス企業は、インターネットを経由してこの情報にアクセスする仕組みだ。
 会宝産業側では、データの分析によって、例えば国内2社の解体中古車を合わせてロシア向け、ギリシャ向けなど輸出コンテナのアレンジができるようになるという。データがまた新たなビジネスチャンスをもたらせば、商社としての存在感はゆるぎないものになるだろう。
 次期システムでは、部品の電子商取引ができる仕組みを考案中だ。これが実現すれば、まさに地球規模のリサイクルネットワークが動きだす。誰も手を付けていない領域に果敢に挑む近藤社長は、自らの位置づけを次のように言う。
 「社名の会宝は、皆が宝に会える会社であること、そして開放されていることを象徴しています。自動車メーカーが動脈であるならわれわれは静脈産業。このポジションで新しい仕事を生み出していきたい」
 解体業から新たな資源を作りだす会社へ――一つのビジネスが磨かれる背景には、企画発想力と行動力がある。

ITコーディネータを活用していかがでしたか?


 良いシステムにするには経営者の発想や構想をITベンダーに理解してもらう必要があります。しかし私の言い方で伝えてもエンジニアには伝わらない。横屋さんは翻訳、それも単に右から左にではなく咀嚼して伝えるという役割を果たしてくれました。
 ただ、専門家といえども、私が相手を少しでも疑ったら深い話はできなかったでしょう。今回うまくいったのは横屋さんと信頼関係が築けたからだと思います。(近藤社長 談)

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支援ITコーディネータ紹介

株式会社
ナレッジ21
代表取締役
横屋俊一 氏

 石川、福井を中心に活動を展開。
 ITSSP 事業(現在のIT 経営応援隊)の経営者研修会を縁に会宝産業をサポート。本システムは2004 年のIT 活用型経営革新モデル事業にも採択された。
 近藤社長が構想する「商社機能の確立」に向け、取引先との情報ネットワークを作り在庫や販売情報を共有する仕組みの構築を目指した。まずはバランススコアカードを利用するなど、同社の課題を整理し戦略を立案するところからスタート。
 システム構築の段階では、IT ベンダーへの窓口となる情報システム担当の桜井茂宏氏へ、近藤社長の構想やシステムを導入する意図を伝え、過不足ないシステム作りをサポートした。

株式会社ナレッジ21
http://www.knowledge21.jp

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